観音堂修復工事 完成報告 ならびに 御礼のご挨拶
更新日:2025.10.28
このたび、令和7年(2025)10月19日(日)、無事に「一畑薬師『観音堂』の落慶法要(完成のおつとめ)」を厳修いたしました。多くの方々からのご支援により、お蔭様で、美しく立派に観音堂を修復させていただくことができました。心より厚く御礼を申し上げます。




一畑寺の本尊仏である薬師如来は、平安時代の寛平6年(西暦894年)に盲目の母親と暮らす漁師の与市(よいち)によって日本海からすくい上げられ、熱烈な信心の末に如来の霊験を得て母親の目が治ったことから、「目のやくし」として信仰されてきました。「一畑のお薬師さま」として親しまれ、通称「一畑薬師」と呼ばれるようになりました。もとは天台宗、現在は臨済宗ですが、宗派を超えて、広く親しまれ信仰いただいている一畑薬師です。

明治21年、薬師本堂は火災で焼失しました。秘仏の本尊はかろうじて焼失の難を免れました。明治23年に再建された現在の薬師本堂は、その後の50年間に2回の屋根の修復工事があり、その都度、本尊の薬師如来像を仮の場所を設けては移動し仮安置しました。人々の参拝の便宜を図るためとは言え、難儀を極めたと記録にあります。昭和の屋根修復を行うにあたり、将来を考えて如来像を仮安置する立派な御堂を建立することが計画されました。昭和16年1月に棟上げ、昭和18年に完成した御堂が、現在の観音堂です。


時代は、日中戦争(日支事変)から太平洋戦争へ突入した戦時下にありながら、仏天の加護と多くの檀信徒の篤い尽力支援により、一畑薬師創開1050年の節目この工事が完遂されました。先々代の謙道和尚が住職の時代です。
当時は徒歩で石段を登って参詣する時代で、この御堂で参籠する人も少なくなかったと伝えられます。先代幸謙和尚の時代には坐禅堂として使用され、私の代には観音菩薩を奉安して、中国観音霊場、百八観音霊場(中国・九州・四国)の札所として多くの霊場巡拝者を中心に、日々、読経の声が絶えない観音堂として親しんでいただいております。


実は、40年前から雨漏りが続き、天井裏にタライを置いてしのぎ、毎年のように部分補修を続けて参りました。住職就任以来、いくつものお堂や伽藍の修復で、多くの方にご支援をいただいて参りましたので、もはや私の代で修復することは困難であろう、傷みが激しいのを承知で次の代に任せるべきであろうと考えておりました。
しかしながら、実に奇特な巡り合わせ、千載一遇の有り難きご縁により、にわかに修復工事を実施することになりました。諸物価が高騰する中、浅草の浅草寺などでも使用されている軽量チタン材を特別に破格の値段で提供いただけることになったのです。このチャンスを逃すことは出来ないと、役員様を始め相談した方々からは一様に賛同をいただき、遂に全面的な屋根の修復へ、弱い地盤の歪みの修正も、耐震補強も施す大工事をすることになりました。

どうせ修復するなら、ただ屋根を替えるだけではもったいない。今まで以上に多くの方に親しんでいただけるお堂にできないだろうか。一畑薬師の境内でもっとも眺望のよい立地を生かして、東面にガラス窓を設け「絶景のお堂」としよう。「天空の瞑想」「天空の写経」を行い、自らに向き合う、内なる平和、心の道場としよう。時代は過疎化であろうが、恵まれた美しい環境の中で、多くの方に親しんでいただける「生きたお堂」として、広く仏縁を結んでいただきたい。多くに人に当地、一畑薬師にお越しいただきたい。そのように発願をし決断をした次第です。わずか3年前のことでした。

令和5年(2023)10月にご寄付のお願いを始め、令和6年(2024)7月から10月まで、初めてのクラウドファンディングを行いました。チタン屋根は令和6年12月に修復が完了、令和7年は基礎、床、壁、内部などの修復に入り、そして予定通り、令和7年(2025)10月、ぎりぎり法要の前日まで、職人様や関係者の方々には精力的にご尽力いただきました。









落慶法要には、総勢200名近い信者・支援者・縁者の皆様のご参列をいただきました。山陰尺八道場の先生方には古典本曲をご献笛賜り、落慶香語を唱え、ご参列の皆様とともに般若心経、観音経などを諷誦しました。来賓様より温かいご祝辞を賜り、また故水木しげる先生の奥様である武良布枝様からもメッセージを頂戴し披露されました。
厳しい時代にありながら、仏天の加護と、皆様の温かいご支援のお蔭様により、かくも立派に修復させていただくことができました。このお堂が、自分に向き合う「内なる安らぎ」をいただく心の道場となり、多くの方に親しんでいただき、少しでも明るく平和な世の中になっていきますことを念じてやみません。今後のさらなる精進をお誓いし、謹んで心より厚く御礼を申し上げます。有難うございました。
合掌
令和7年(2025)10月28日
一畑薬師管長(一畑寺住職)飯塚 大幸

